イーヘルスクリニック新宿院の天野です。
今日は少し、私の大学院時代の専門分野についてお話しさせてください。私は医学の研究とともに、「社会疫学(Social Epidemiology)」という学問に興味を持ち、研究していました。
🌍 社会疫学とは?
「個人の健康は、その個人の周りの環境(つながっている人、住んでいる地域、働いている会社など)によって決まる」という考え方をする学問です。
この分野では、これらを「健康の社会的決定要因(SDH: Social Determinants of Health)」と呼びます。
個人の健康やウェルビーイング(幸福)に影響を与える、生まれ育った環境や社会経済的状況、政策などの「医学以外の」要因全般を指します。
これらは健康格差を生み出す根本的な原因とされており、個人の努力だけでは変えられない構造的な問題として、社会全体で取り組むべき課題とされています。
この「社会疫学」の視点から、非常に興味深い最新の研究結果が報告されましたので共有します。アメリカの全3143郡(地域)を対象にした大規模な調査で、「地域ごとの睡眠習慣と平均寿命」の関係が明らかになりました。
つまり、睡眠は収入や住んでいる場所に関係なく、寿命に直結する「自分で変えられる(いじれる)最強の生活習慣」である可能性が示されたのです。
今回の研究論文の抄録(Abstract)を分かりやすく日本語に訳して解説します。
研究目的:
何百万人ものアメリカ人が日々睡眠不足に陥っていますが、アメリカ全土の「郡(地域)」レベルでの睡眠と平均寿命の関係はこれまで不明でした。方法:
CDC(アメリカ疾病予防管理センター)の行動危険因子監視システム(2019-2025年)のデータを使用し、一般的な健康への悪影響(喫煙、食事、運動不足)を考慮(調整)した上で、郡レベルでの「睡眠不足」と「平均寿命」の関連性を検証しました。結果:
2019年から2025年にかけて、ほとんどの州において睡眠不足は平均寿命と有意に負の相関を示しました(睡眠不足が少ない地域ほど、寿命が長い)。
さらに、死亡率に関わる従来の要因を調整してもなお、睡眠不足は平均寿命の短さと強く関連しており、その影響力より強いものは「喫煙」のみでした。結論:
これらの発見は、所得レベル、医療サービスへのアクセス、地理的な区分に関わらず、すべてのコミュニティにおいて「十分な睡眠」がいかに重要であるかを実証しています。
社会的な環境要因を変えることは難しい場合もありますが、睡眠習慣は今日からでも変えることができます。不安を和らげ、質の高い睡眠を得るために、日常生活で取り入れやすい方法をご紹介します。
「眠れない」「いびきが気になる(睡眠時無呼吸症候群)」など、睡眠に関するお悩みは、当院のオンライン診療でも対応可能です。
▼睡眠の悩み・不眠症外来
▼睡眠時無呼吸症候群(SAS)外来
この記事の監修者
天野 方一(イーヘルスクリニック新宿院 院長)
埼玉医科大学卒業後、都内の大学附属病院で研修を修了。東京慈恵会医科大学附属病院、足利赤十字病院、神奈川県立汐見台病院などに勤務、研鑽を積む。2016年より帝京大学大学院公衆衛生学研究科に入学し、2018年9月よりハーバード大学公衆衛生大学院(Harvard T.H. Chan School of Public Health)に留学。予防医療に特化したメディカルクリニックで勤務後、2022年4月東京都新宿区に「イーヘルスクリニック新宿院」を開院。複数企業の嘱託産業医としても勤務中。
日本腎臓学会専門医・指導医、抗加齢医学会専門医、日本医師会認定産業医、公衆衛生学修士、博士(公衆衛生学)
この記事の運営者:イーヘルスクリニック新宿院