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コラム
2025.07.01

「睡眠不足でも大丈夫」という勘違い。仕事の生産性と健康を蝕む危険なサイン【医師解説】

【医師が解説】「睡眠不足でも大丈夫」は危険な勘違い。飲酒状態と同じパフォーマンス低下と健康リスク

「昨日は3時間しか寝ていないけど、気合でなんとかなる」
「慢性的に睡眠不足だけど、もう慣れたから大丈夫」

多くのビジネスパーソンが、このように感じながら日々の業務をこなしているかもしれません。しかし、その「なんとかやれている」という感覚こそが、最も危険な落とし穴です。日本の睡眠不足による経済損失は年間約15兆円にも上ると試算されており、個人の問題だけでなく、社会全体の問題となっています。

今回は、睡眠不足があなたの仕事のパフォーマンスと健康にどれほど深刻な影響を与えているか、科学的根拠を基に解説し、現代の医療でできる対策をご紹介します。

あなたの脳は「ほろ酔い」状態?睡眠不足のパフォーマンス低下

「睡眠不足は仕事の効率を落とす」と頭では分かっていても、その深刻さを実感している人は少ないでしょう。ご複数の研究で衝撃的な事実が報告されています。

  • 17時間~19時間起き続けている人のパフォーマンスは、血中アルコール濃度0.05%の「ほろ酔い」状態の人と、同等かそれ以下に低下する1

つまり、徹夜明けや睡眠不足の状態で仕事をすることは、お酒を飲んで仕事をしているのと変わらないほど、判断力や注意力が鈍っているということです。自分では「普通にできている」つもりでも、客観的には大きなミスを犯しかねない危険な状態なのです。

気づかぬうちに起きている「仕事への悪影響」

パフォーマンスの低下は、具体的な業務にも現れます。睡眠不足は、あなたの能力を静かに、しかし確実に蝕んでいきます。

個人として起きる能力低下2

  • マルチタスク能力の低下: 複数の作業を同時にこなす効率が落ちる。
  • 注意力の低下: 目の前の課題への集中が続かず、注意が散漫になる。
  • 創造性と革新性の低下: 新しいアイデアや解決策が生まれにくくなる。
  • 非論理的な行動の増加: 冷静な判断ができず、感情的な行動を取りやすくなる。
  • 問題解決能力の低下: 複雑な問題を解きほぐす思考力が鈍る。

上司・マネージャーとして起きる態度の変化2

睡眠不足は、チームを率いる立場の人にも深刻な影響を与えます。

  • カリスマ性の低下: 部下を惹きつける魅力やリーダーシップが失われる。
  • 威圧的態度の増加: 不機嫌になり、部下に対して攻撃的・高圧的な態度を取りやすくなる。

自分だけでなく、チーム全体の生産性や士気まで下げてしまう可能性があるのです。

「慣れ」ではなく「蓄積」。不眠が招く深刻な病気のリスク

「睡眠不足に慣れた」と感じるのは、体が順応したわけではありません。感覚が麻痺し、心身が発するSOSサインに気づけなくなっているだけです。睡眠不足という負債(睡眠負債)は日々蓄積し、やがて深刻な病気のリスクとなって現れます。

  • 肥満症
  • 生活習慣病(糖尿病や高血圧症など)
  • 心疾患や脳卒中
  • 不整脈
  • 腰痛
  • 認知症

質の高い睡眠を取り戻すために

では、どうすれば良いのでしょうか。まずは生活習慣の見直しから始め、必要であれば医療の力を借りることも重要です。

基本的な生活習慣の改善

  • 食事: トランス脂肪酸や塩分を減らし、魚に含まれるDHA/EPAなどを積極的に摂る。
  • 運動: 定期的な運動習慣を持つ。
  • 水分と飲酒: 就寝前の過度な水分摂取や飲酒は避ける。
  • 入浴と環境: 就寝1〜2時間前にぬるめのお風呂に入り、部屋を暗くしてリラックスする。

現代の安全な睡眠薬という選択肢

生活習慣の改善だけでは眠れない場合でも、心配はいりません。現在の睡眠医療では、従来の睡眠薬とは異なる、依存性のリスクが極めて低い安全な薬が主流となっています。

  • メラトニン受容体作動薬(ロゼレム®など)
    自然な眠りを誘う体内ホルモン「メラトニン」の働きを模倣し、体の睡眠リズムを整えます。依存性がなく、長期使用が可能です。
  • オレキシン受容体拮抗薬(ベルソムラ®、デエビゴ®など)
    脳を覚醒させる物質「オレキシン」の働きをブロックすることで、自然な眠気を促します。依存性がなく、翌日の眠気も少ないのが特徴です。

まとめ:「なんとなく不調」を放置しない

睡眠不足による「なんとなくの不調」や「パフォーマンスの低下」は、あなたの心と体が発している明確な危険信号です。それを「気合」や「慣れ」で乗り越えようとせず、専門的なケアで解決することが、ご自身のキャリアと健康を守る上で不可欠です。

睡眠に関するお悩みがあれば、どうぞお気軽に当クリニックにご相談ください。

参考コラム

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参考文献
1. Williamson AM, Feyer AM. Moderate sleep deprivation produces impairments in cognitive and motor performance equivalent to legally prescribed levels of alcohol intoxication. Occup Environ Med. 2000;57(10):649-655. (https://oem.bmj.com/content/57/10/649.long)
2. Barnes CM. Sleep? Who needs sleep?! An organizational science perspective. Res Organ Behav. 2017;37:1-21. (https://linkinghub.elsevier.com/retrieve/pii/S0149-7634(17)30164-1)

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