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コラム
2023.12.25

ビタミンDが感染症予防に与える影響

イーヘルスクリニック新宿院の天野です。
2020年からの新型コロナウイルス禍は今年、大きな節目を迎えました。5月に季節性インフルエンザと同じ5類感染症に移行し、都内でもマスクを外す人が増えるなど、徐々に日常が戻りつつあります。夏には第9波とみられる流行がありましたが、昨冬の第8波の半分程度にとどまり、行動制限などはありませんでした。ただし、年末にかけて患者数は増加傾向にあり、これまでなかったインフルエンザとの同時流行には警戒が必要とされています。

そこで、今回はビタミンDが感染症を予防できる可能性があることを記事としてまとめています。皆様の体調管理に役立てていただければ幸いです。

 

 

ビタミンD

ビタミンDは骨の健康維持に重要な必須栄養素として知られています。しかし、最近の研究では抗炎症作用や免疫調節作用、抗がん作用などを介した多彩な効果が知られるようになりました。これらの作用を通じ、感染症予防作用や各種の生活習慣病のリスク低減作用が報告されています。

ビタミンの基礎原則は「体内で生成されず、何らかの形で外界からえらなければならない、健康維持に必要不可欠な栄養素」と定義されています。しかし、ビタミンDだけは他の一般的なビタミンとちがって、日光などの紫外線をあびることによって体内で生成されることができます。今回はビタミンDが感染症予防に与える影響を紹介していきます。

 

①インフルエンザ発症予防

この研究では,学校児童を対象に,ビタミンDサプリメント投与による季節性インフルエンザ(A型)に対する作用が検証されています。

具体的には,2008年12月から2009年3月まで,ランダム化二重盲検偽薬対照試験として,ビタミンD3(1200 IU/日)投与群とプラセボ投与群との比較が行われました。

インフルエンザの発症は,ビタミンD3投与群では167名中18名(10.8%)であり,一方プラセボ群投与群では167名中31名(18.6%)でありました。

ビタミンD投与によって,インフルエンザ罹患率が約42%も低下(RR 0.58; 95% CI: 0.34, 0.99; P = 0.04)したことが分かりました。

(Am J Clin Nutr. 2010;91:1255-60.)

 

②上気道感染症(一般の風邪)発症予防

炎症性腸疾患(IBD)患者において、冬期及び早期の春の期間に、ビタミンDサプリメントの経口投与による上気道感染症の罹患率への作用についての検証が行われました。

具体的には、ランダム化二重盲検偽薬対照試験として、IBD患者223名を対象に、ビタミンD(500 IU/日)投与群108名とプラセボ投与群115名の2群についての比較が行われました。

解析の結果、上気道感染症の罹患率は、ビタミンD投与群のほうが約41%も有意に低下(RR, 0.59; 95% CI, 0.35-0.98; P = 0.042)したことが分かりました。

Inflamm Bowel Dis. 2019 May 4;25(6):1088-1095.)

 

 

感染症以外でビタミンD投与が発症予防に有用と考えられている疾患

ビタミンDの投与が感染症以外の疾患の発症予防に有用であるとされる疾患は多岐にわたります。

まず、大腸がんや前立腺がん、これに加えて多発硬化症といった重篤な病態もその対象となっています。心疾患や脳卒中、認知症といった神経系や心血管系の疾患においても、ビタミンDの投与が予防的な効果を発揮する可能性が注目されています。

また、高血圧症や糖尿病といった生活習慣病においても、ビタミンDが一定の予防効果を示すとされています。
高齢者においては、骨折や転倒のリスクを低減させる効果も期待されています。これらの疾患においてビタミンDが示す効果は、その多様性と健康に対する総合的な影響が広く認識されています。

 

 

摂取量

体内のビタミンD濃度はどのぐらいかが適切なのかはっきりと分かっていません。

しかし、アメリカの国立衛生研究所(NIH)によれば、30nmol/l未満では健康を維持するには低すぎであり、1250mmol/l以上では高すぎと考えられています。

また、NIHによれば

子供から71歳までの成人は600IU/日

それ以降は800IU/日の摂取を推奨しています。

(上限は4000IU/日)

 

一方、米国骨粗鬆財団の摂取量の基準は以下のようになっています。

50歳までは 400-800 IU/日、50歳以上では800-1,000 IU/日

 

現在、日本人は子どもも若年女性も、高齢者もビタミンD欠乏している人が増えていると考えられています。

ビタミンD不足の原因としては、

女性は日焼け止めを使用、紫外線を避けていること

高齢者は、熱中症対策で外出しないこと

子どもでは偏食やアレルギーのために、魚やキノコを食べないこと等が考えられています。

 

ビタミンDを含む食品(カツオ、アンコウ肝、サケなどの魚類、キクラゲ、シイタケなどのシイタケ類に含まれています)は限られており、補給するには日光に当たることが重要であります。しかし、過剰な日光への暴露は皮膚の老化、皮膚がんの増加、熱中症などリスクがあります。

 

ビタミンD不足に対処するために、米国、カナダ、インド、フィンランドなどの国で、国民のビタミンD濃度を高めるために、食品にビタミンDを入れる政策が行われています。

 

以上より、ビタミンD不足の予防には食事以外からの摂取(サプリメントなど)も重要視されています。

 

過剰摂取による健康障害

ビタミンDは脂溶性ビタミンであるために、多すぎる摂取は過剰症を引き起こします。

ビタミンDの過剰により、高カルシウム血症が起こり、その結果、悪心、嘔吐、食欲低下、口渇感、多飲、多尿、脱力、意識障害や不整脈などの症状がおこるとされています。

より重症なものでは、血管や組織の石灰化が起こり、心血管や腎臓に障害が起こる可能性があります。また腎結石の頻度が増す可能性があると考えられています。

 

ビタミンDの基礎知識

・ビタミンDはビタミンD2からビタミンD7まであります。

・ビタミンD1は誤った化合物に命名していたので、その後取り消しになり、現在は存在しません。

・生理学的に重要なのは、ビタミンD2(エルゴカルシフェロール)とビタミンD3(コレカルシフェロール)のみである。ビタミンD2とビタミンD3は同等の作用と考えられています。D3は動物由来、D2は植物性由来とされています。

・ビタミンDはカツオ、アンコウ肝、サケなどの魚類、キクラゲ、シイタケなどのシイタケ類に含まれています。

・ビタミンDの作用は腸管からのカルシウムの吸収を促進し、適切な血清カルシウムとリンの濃度を維持します。

・春から夏にかけて、紫外線が多い正午頃に30分程、顔や手足を日光にさらすことで、十分なビタミンDが皮膚で生成されます。

・ビタミンDの投与量や摂取量の単位:1μg=40IU

(μg=マイクログラム:100万分の1グラム)、(IU=国際単位:international unit)

 

ビタミンの基本原則は、「体内で生成されず、何らかの形で外部から摂取しなければならない、健康維持に不可欠な栄養素」とされています。しかし、ビタミンDは他の一般的なビタミンと異なり、日光などの紫外線を浴びることによって体内で生成されることができます。この特異性が感染症予防にどのような影響を与えるか、今回の記事では詳しくご紹介していきます。

 

当院の発熱外来について

インフルエンザ感染について

 

記事作成:天野 方一(イーヘルスクリニック新宿院 院長)
埼玉医科大学卒業後、都内の大学附属病院で研修を修了。東京慈恵会医科大学附属病院、足利赤十字病院、神奈川県立汐見台病院などに勤務、研鑽を積む。2016年より帝京大学大学院公衆衛生学研究科に入学し、2018年9月よりハーバード大学公衆衛生大学院(Harvard T.H. Chan School of Public Health)に留学。予防医療に特化したメディカルクリニックで勤務後、2022年4月東京都新宿区に「イーヘルスクリニック新宿院」を開院。複数企業の嘱託産業医としても勤務中。
日本腎臓学会専門医・指導医、抗加齢医学会専門医、日本医師会認定産業医、公衆衛生学修士、博士(公衆衛生学)の資格を有する。