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2023.01.11
#腎臓内科 #対象疾患

慢性腎臓病(CKD)と塩分摂取の関係 ~今日から実践できる減塩方法~

現代において塩は人間の食には欠かせません。ただ、塩分の過剰摂取がさまざまな疾患のリスクを伴うことが明らかになってきてからは、「減塩」を推奨する時代の流れとなってきました。

そんな塩ですが、石器時代では1日の食塩摂取量は1g~3g程度と大変少なかったと考えられています。現在でも、塩を手に入れることができない南米のヤノマモ族は、1日1g未満の食塩で暮らしています。

現在、塩の摂取量・使用量が急激に増えた背景には、製塩の普及や、塩が食物の保存に役立つことがあげられます。特に今から約50年前ごろが食塩摂取量のピークで、日本北部では1日30g近く、日本南部ではこれより少ないものの15g程度と大変多かったことが報告されています。その後は、冷蔵庫の普及や食生活の欧米化に伴って、日本人の食塩摂取量は減少傾向にありますが、まだまだ他国に比べて多い状況が今日まで続いています。

そんな中で、減塩は各地で推奨され、世界保健機構(WHO)では1日平均⾷塩摂取量5g未満、健康⽇本21(第2次)では8g未満を推奨量として、食塩の過剰摂取を控える啓発活動を行ってきています。

 

食塩の過剰摂取と疾患のリスク

食塩の過剰摂取は、多くの疾患のリスクと関係することがわかっています。
正常な人でも、塩分を多く摂取すると血圧が高くなりますが、高血圧の人はそれよりも更に血圧が高くなりやすいといわれています。食塩の摂り過ぎで血圧が高い状態が続くと、血管に負担がかかり動脈硬化になります。更にこの状態が続くと、狭心症/心筋梗塞、脳卒中や慢性腎臓病などの疾患が発症しやくなります。

 

食塩の過剰摂取と慢性腎臓病

食塩の過剰摂取が高血圧を発症し、高血圧そのものが慢性腎臓病発症の原因となり、さらに血圧が高い状態が続くことで慢性腎臓病の病態を悪化させます。また、食塩の過剰摂取が、腎臓での血液のろ過の際に過剰な負担となること(糸球体過剰濾過)、尿蛋白の増加に関連していることも報告されています。このため慢性腎臓病の管理の重要なポイントとして、減塩による腎機能低下抑制効果が注目されています。

では、我々の健康と密接に関係してくる食塩摂取ですが、少しでも減らすための工夫はあるでしょうか。次に、日常生活の中で試せる方法をご紹介します。

 

身近な減塩方法

減塩の方法は巷にあふれかえっています。しかしその多くは、単純に食事に使う食塩の量を減らすことや醬油・味噌の使用を減らすことなどで、そうはいっても味が物足りなくなるし、なかなかやめられないという声は多いです。

そこで、ここではちょっと違う角度からの減塩方法をご紹介します。

① ソルトシェーカー(塩の入れている入れ物)の穴の数を少なくする

私達の味覚は意外と適当なのものです。アメリカで1,900人を対象に行われた、ソルトシェーカーの穴の面積と塩分摂取量の関係を調べた研究によると、食べ物の味は一切関係なく、ソルトシェーカーの穴の面積と塩分摂取量が比例しているという結果が出たのです。つまり人は、味に関係なくソルトシェーカーを一定回数振ってしまうクセがあることを示しています。つまり、一回で出てくる塩の量を、穴の面積を小さくすることで物理的に減らせば減塩につながりますので、まずは自宅にあるソルトシェーカーを見直すとことから始めてはいかがでしょうか。

② 外食/レトルトのラーメンとカレーライスを減らす

私達の食塩摂取のうち約70%は、外食もしくは加工食品由来といわれています。また、日本人の食塩の多い食事のトップ2がラーメンとカレーライスでることがわかっています。そのため、自炊などできない人でも、まずは外食およびレトルトのラーメンとカレーライスを食べる機会を減らすだけで、減塩に直結しますよ。

③ 減塩は伝染する?!~減塩を実行できた人と友達になることが第一歩~

ある報告では、減塩料理教室に出席した人だけではなく、その家族までも結果的に減塩を実行できていたことがわかっています。この研究は、対象者を2つのグループにわけ、1つのグループには減塩をテーマにした料理教室へ参加してもらい(介⼊群)、もう一つのグループには健康的な⽣活習慣に関する講義へ参加してもらい(対照群)、2カ月後の参加者及び家族の減塩の効果を評価しました。すると、介入群では、2カ月後には約1g/日の塩分摂取の低下が認められた一方で、対照群は有意な低下が認められませんでした。この傾向は参加者のみではなく、家族の塩分摂取量も同様でした。

健康な生活習慣やポジティブ感情は他人に伝染するといわれていますが、減塩についても同様なことが言えるのかもしれません。研究では、減塩料理教室への参加者とその家族について調べられ、家族も一緒に減塩効果があったことは、同じ料理を食する家族であるなら予測できる結果ですが、これが行動を共にする友人もと考えると、確かに効果はありそうです。

まずは減塩を実行している人と一緒に食事をしたり、または一緒に料理をしたりといった機会を意識的に設けることも一つの方法だと思います。

 

ただし、食塩摂取3g/日未満の人は疾患のリスクが逆に高まるとの報告も認められています。特に夏場で高齢者の方は減塩しすぎないことに心がけましょう。

 

著:医師 天野方一(eHealthclinic院長)

参考文献

・J Am Soc Nephrol. 2012 Jan;23(1):165-73.
・Hypertension. 1995 Jun;25(6):1339-44.
・Hypertension. 1994 Feb;23(2):195-9.
・Nature. 1983 Jan 27;301(5898):331-2.
・Hypertens Res. 2018 Mar;41(3):209-212.