希望するご予約を
お選びください

×閉じる
コラム
2024.05.08

腎機能が低下した慢性腎臓病患者でも効果あり:SGLT2阻害薬の大規模臨床試験の分析

「腎機能が低下した慢性腎臓病患者でも効果あり:SGLT2阻害薬の大規模臨床試験の分析」をわかりやすく解説

腎臓の機能が徐々に低下していく慢性腎臓病(CKD)。進行すれば透析や移植が必要になることもあり、深刻な病態です。近年、糖尿病治療薬として注目を集めている「SGLT2阻害薬」が、慢性腎臓病治療にも効果を発揮することがわかってきました。

糖尿病治療薬であるSGLT2阻害薬は、腎臓に作用し、慢性腎臓病患者において腎機能低下を抑制する効果が知られています。しかしながら、異なる腎機能を持つ患者におけるこの薬の効果の差については、まだ明確ではありませんでした。最新の研究によれば、「SGLT2阻害薬はどの腎機能を持つ患者に対してでも効果がある可能性がある」という結果が示されました。心臓病による死亡率や心不全の悪化、脳卒中の予防などの利益は、特に腎機能が重度に低下した慢性腎臓病患者において大きい可能性があります。この論文の結果を参考に、詳細に説明していきます。

 

SGLT2阻害薬:期待以上の腎臓保護効果!

SGLT2阻害薬は、通常は糖尿病の治療に使用されるお薬です。SGLT2は「ナトリウム-グルコース共輸送体2」という腎臓の細胞表面に存在するタンパク質で、血液からの糖の再吸収を助ける働きがあります。SGLT2阻害薬は、このタンパク質の働きを抑制することで、余分な糖を尿として排出します。この作用により、血糖値が下がると同時に、腎臓にかかる負担が減るため、慢性腎臓病の進行を遅らせる効果が期待されています。

SGLT2阻害薬は、腎機能の程度が異なる患者さんでも保護効果を持続することが明らかになっています。

特に、重度慢性腎臓病患者さんにおいては、SGLT2阻害薬は下記のような顕著な効果を発揮することが示されています。

  • 死亡リスクの更なる低下: 従来の治療法と比較して、死亡リスクを40%以上も低下させることが報告されています。
  • 心血管死、心不全悪化、脳卒中の予防: 心臓病や脳卒中などの重大な心血管イベントのリスクを最大60%も低下させることが示されています。
  • 腎機能の進行抑制: 腎機能の悪化を50%以上も遅らせることが報告されています。透析の必要性を遅らせることができ、患者の生活の質を大幅に改善することが期待されます。

これらの画期的な成果は、SGLT2阻害薬が慢性腎臓病患者さんにとってまさに救世主と言えることを示しています。

 

タイトル: 腎機能による糖尿病薬の心臓と腎臓への影響の違い:大規模な臨床試験の分析

要約:

  • 背景: 糖尿病薬であるSGLT2阻害薬は、腎臓で働き、慢性腎臓病の患者では効果が低下することが知られています。しかし、腎機能の異なる患者におけるこの薬の効果の差は、まだはっきりしていません。
  • 方法: 2022年5月25日までに公開された研究を基に、糖尿病薬と偽薬を比較し、心臓や腎臓に関する結果を報告した臨床試験を分析しました。主な結果は、心臓病死亡、心筋梗塞、脳卒中などの重大な心臓イベントでした。その他の結果には、これらのイベントの個々の要素、全死亡率、心不全による入院、心臓病死亡と心不全の組み合わせ、腎臓の問題が含まれていました。腎機能とリスクの関係を評価するために、統計的な分析を行いました。また、糖尿病、心不全、動脈硬化性心臓病の有無など、他の要因も考慮に入れた追加の分析を行いました。
  • 結果: 糖尿病薬の使用は、重大な心臓イベント、心臓病死亡、心筋梗塞、心不全、腎臓の問題のリスクとは関連がないことがわかりました。しかし、脳卒中のリスクは薬の使用と正の関連がありました。また、腎機能と心臓病死亡や心不全の組み合わせのリスクも正の関連がありました。追加の分析も、ほとんどの結果が主な分析と一致しました。
  • 結論: 糖尿病薬の保護効果は、腎機能の異なる患者にも持続します。心臓病死亡、心不全の悪化、脳卒中の予防などの利益は、特に重度の慢性腎臓病の患者において大きい可能性があります。そのため、慢性腎臓病の患者は、この薬を用いて積極的に治療し、結果を改善するべきです。

引用元: 参考文献
Lin DS, Yu AL, Lo HY, Lien CW, Lee JK, Chiang FT, Tu YK. Differential effects of sodium-glucose cotransporter 2 inhibitors on cardiovascular and renal outcomes according to renal function: a dose-response meta-analysis involving 10 randomized clinical trials and 71,553 individuals. European journal of endocrinology. 2023;189(1):S17-S25.

 

SGLT2阻害薬はすべての慢性腎臓病患者さんに適しているの?

SGLT2阻害薬は比較的安全な薬剤ですが、いくつかの副作用に注意する必要があります。最も一般的な副作用は、尿路感染です。これらはSGLT2阻害薬が尿中の糖の量を増やすため、細菌の増殖する環境を作り出してしまうためです。また、低血糖症のリスクもありますので、他の血糖降下薬と併用する場合は特に注意が必要です。こうした情報を医師と共有し、定期的な検査と相談を行うことが大切です。

SGLT2阻害薬は、多くの慢性腎臓病患者さんに有効ですが、服用前に医師と相談する必要があります。

 

SGLT2阻害薬が適さない可能性がある患者さん

  • 重度の脱水症状: 脱水症状を悪化させる可能性があるため、注意が必要です。
  • 電解質異常: 電解質異常を悪化させる可能性があるため、注意が必要です。
  • ケトアシドーシスの既往歴: ケトアシドーシスのリスクを高める可能性があるため、注意が必要です。
  • 妊娠・授乳中: 安全性が十分に確立されていないため、服用を避ける必要があります。

服用前に医師と相談し、個々の状態に合った治療法を選択することが大切です。

まとめ:慢性腎臓病患者さんの予後を変える可能性を秘めたSGLT2阻害薬

SGLT2阻害薬は、慢性腎臓病患者さんの心血管と腎臓の健康を劇的に改善し、生命予後を延ばす可能性を秘めた新しい治療薬です。

すべての慢性腎臓病患者さんにSGLT2阻害薬が適しているわけではありませんが、多くの患者さんにとって恩恵をもたらす可能性があります。

SGLT2阻害薬の服用を検討している場合は、必ず医師に相談し、適切な用量を守ることが重要です。

 

イーヘルスクリニック新宿院の腎臓内科

健康診断でクレアチンが高い、尿蛋白や血尿が陽性の場合は、当院の腎臓内科を受診してください。基礎疾患や腎機能のリスク因子を検査し、最適な治療プランを提案します。治療オプションは理解しやすく説明し、患者様の了承を得た上で治療方針を共に決定します。当クリニックには管理栄養士もおり、食事に関する専門的なアドバイスも受けられます。健康な未来への一歩を踏み出すお手伝いをさせていただきます。

 

▼【来院】のご予約はこちら▼

▼【オンライン診療】のご予約はこちら▼

 

■関連記事はこちらもチェック!

■糖尿病性腎症
■IgA腎症
■ネフローゼ症候群
■慢性腎臓病

■慢性腎臓病を予防できる最新の食生活習慣 ~減塩と植物性タンパク質~
■慢性腎臓病(CKD)と塩分摂取の関係 ~今日から実践できる減塩方法~
■慢性腎臓病の予防と食事パターン
■慢性腎臓病と糖化AGEsの関係

■医師に聞く“慢性腎臓病”の早期発見や病院探しのポイント~セルフケアの一環としても受診することが大切~
■医師に聞く“慢性腎臓病”の治療のポイント~最新トピックスや日常生活での注意点とは~

 

 

記事監修:天野 方一(イーヘルスクリニック新宿院 院長)
埼玉医科大学卒業後、都内の大学附属病院で研修を修了。東京慈恵会医科大学附属病院、足利赤十字病院、神奈川県立汐見台病院などに勤務、研鑽を積む。2016年より帝京大学大学院公衆衛生学研究科に入学し、2018年9月よりハーバード大学公衆衛生大学院(Harvard T.H. Chan School of Public Health)に留学。予防医療に特化したメディカルクリニックで勤務後、2022年4月東京都新宿区に「イーヘルスクリニック新宿院」を開院。複数企業の嘱託産業医としても勤務中。
日本腎臓学会専門医・指導医、抗加齢医学会専門医、日本医師会認定産業医、公衆衛生学修士、博士(公衆衛生学)の資格を有する。