肥満治療の基本:食事・運動・睡眠と漢方
肥満の治療は、薬だけでなく、食事や生活習慣の見直しが土台になります。当院の肥満外来(医療ダイエット外来)でお伝えしている内容を、以下にまとめます。
管理栄養士による栄養指導(食事療法)
肥満治療の基本は食事療法と運動療法で、必要に応じて薬物療法が検討されます。食事療法では、管理栄養士が本人の性格や生活スタイル、体格などを把握したうえで、一人ひとりに合った食事を提案します。たとえば、1日に必要な栄養素や食材を手のひら換算などで分かりやすく指導したり、自己記録した食事内容の問題点を抽出して自己管理のアドバイスを行ったりします。
栄養指導の流れ
- 食生活などの確認:生活習慣病の有無、普段の食事内容、運動習慣を確認し、体重測定など各種検査も行います。普段の生活をありのままに伝えてください。
- 1日のエネルギー量の計算:摂取エネルギー量は「25kcal×標準体重(kg)/日以下」が目安で、3〜6か月で現在の体重から3%以上の減量を目標にするのが一般的です。たとえば体重75kg・身長165cmの方では、標準体重(BMI24で計算)は約65kg、1日の摂取エネルギー量は1,625kcal、減量目標は約2kgとなります。標準体重は医師などと話し合って決めるため、人によって異なります。
- 食事内容の栄養指導:基本は、栄養バランスが整った食事を3食規則正しく食べることです。食事回数が少なくなると次の食事で食べ過ぎたり、飢餓状態が続くと通常の食事でも太りやすくなったりするため、食事を抜く減量は逆効果になることがあります。
患者さんに合わせた栄養指導の例
- 菓子パンやラーメンを食べることが多い方:これらのエネルギー量や脂質量を伝え、肥満の原因となる食品を控えるよう促します。
- 早食いの方:満腹感を得られるのは食べ始めてから15〜20分ほどといわれます。よく噛んでゆっくり食べるよう促すほか、食材を大きめに切って噛む回数を増やすなど、調理の工夫を提案することもあります。
- 残業が多く夕食が遅くなる方:空腹から食べ過ぎることがあるため、18時頃におにぎりなどの軽食をとることを提案します。
糖質制限と脂質制限
減量の食事療法には糖質制限や脂質制限があり、それぞれ一長一短で、どちらか一方が優れているというわけではありません。低炭水化物食を食べた過体重・肥満者(BMI25以上)に関する複数の研究をまとめて再解析した研究では、低炭水化物食(平均摂取期間は約24週間)を行った方は、そうでない方と比べて、6か月時に中央値で8.73kg、12か月時に7.25kgの減量が達成されました。
一方で、観察期間の中央値が25年間の、米国の成人15,428人(45〜65歳)を対象にした研究では、死亡リスクが最も低く寿命が最も長かったのは、摂取エネルギーに占める炭水化物の割合が50〜55%の人で、炭水化物の割合が30%未満の人より4年、65%以上の人より1年、寿命が長いという結果でした。極端な糖質・炭水化物制限は、寿命を短くするかもしれません。
また、低脂肪食でも低炭水化物食でも減量効果は変わらないとの報告もあります。その人の生活スタイル、体質、食事の好みに合った方法を選ぶのがよいでしょう。
参考文献:JAMA. 2014 Sep 3;312(9);923-33 / Public health. 2018 Sep;3(9);e419-e428. / JAMA. 2018 Feb 20;319(7):667-679.
食後の過ごし方:血糖値と軽い運動
食後に血糖値が急上昇すると、体はインスリンというホルモンを多く分泌します。インスリンには、血中の糖を脂肪として体内に取り込みやすくする作用(同化作用)があるため、血糖値の急上昇は太りやすさにつながります。最新の研究(PMID: 35765995)では、2〜5分の軽い散歩を20〜30分ごとに行うだけで、座りっぱなしよりも食後の血糖値とインスリン分泌を大幅に抑えられると報告されています。
- 「20分座ったら2分歩く」を習慣にする
- 2〜5分の軽い散歩を20〜30分ごとに挟むと、食後血糖・インスリンが大幅に下がる
- 立つだけの休憩でも効果はあるが、歩きの半分以下の効果
- 可能であれば、食後すぐの軽い散歩がおすすめ
睡眠と肥満の関係
睡眠時間が短いと太りやすくなることが、研究で示されています。米国コロンビア大学の約1万5000人を対象にした研究では、平均睡眠時間が7〜9時間のグループに比べて、睡眠6時間では23%、5時間では50%、4時間以下では73%、肥満になる確率が高くなりました。不眠は肥満だけでなく、心血管疾患、高血圧、糖尿病、脂質異常など生活習慣病やうつ病とも密接に関連していることが分かってきています。
英国キングズカレッジロンドンのメタ分析では、睡眠時間が制限されていた人は、睡眠時間が7〜12時間の人に比べて、起床後24時間の摂取カロリーが1日平均385kcal多く、エネルギー消費量には睡眠による影響が見られませんでした。睡眠不足では脂肪の摂取量が増え、たんぱく質の摂取量が低下し、炭水化物には変化がみられませんでした。
睡眠不足で摂取カロリーが増える背景には、食欲に関わる物質の変化があると考えられています。
- 腸管ペプチドYY(PYY):食欲を抑えて食べる量を減らす作用があります。3.5時間睡眠を3日続けた人は、7時間睡眠の人に比べて血中PYYが有意に低かったと報告されています。
- レプチンとグレリン:レプチンは脳に代謝向上や食欲抑制のシグナルを送り、グレリンは胃から分泌されて食欲増進と血糖値上昇の命令を出します。米国の研究では、5時間睡眠の人は8時間睡眠の人に比べて、レプチン分泌量が15.5%減り、グレリン分泌量が約15%増えたと報告されています。
- ノルアドレナリン:睡眠時間が短い人では、ストレスホルモンのノルアドレナリンが上昇することが分かっています。食欲を高めるほか、血圧や血糖を上昇させる作用もあります。
十分な睡眠時間を確保するよう、工夫してみてください。
肥満の治療に使われる漢方
漢方は、体格や体質に合ったものを飲むと、便秘やむくみ、肩こりなどの症状改善が期待できます。肥満の治療に使われる代表的な漢方は、防風通聖散(ぼうふうつうしょうさん)、防已黄耆湯(ぼういおうぎとう)、大柴胡湯(だいさいことう)です。防風通聖散と防已黄耆湯は、肥満症と診断された場合に保険適用となります。肥満症とは、BMIが25以上で、肥満による健康障害(2型糖尿病、高血圧、睡眠時無呼吸症候群など)を1つ以上併発しているか、健康障害を起こしやすい内臓脂肪蓄積がある場合をいいます。処方の可否や保険適用の可否は、診察で医師が判断します。
防風通聖散
- 適した体格・体質:比較的がっちりした体格で、お腹に脂肪がたくさんあり、男性の場合は太鼓腹の人。肥満に伴い便秘、肩こり、のぼせ、動悸などがある人。
- 効果:発汗、便通、清熱、利尿の効果があります。18種類の生薬でつくられ、ボウフウ、ケイガイ、トウキは血流を改善して脂質の代謝を促す効果が認められています。カッセキ、ビャクジュツなどが水分の排出を促してむくみを改善します。
- 副作用:不眠、発汗過多、食欲不振、胃部不快感、吐き気、軟便などがみられることがあります。
防已黄耆湯
- 適した体格・体質:全体的にぽっちゃりしていて、筋肉がやわらかい水太りタイプの人。色白で疲れやすく、汗かきの傾向がある人。
- 効果:消化吸収を助けるとともに、余分な水分の排出を促します。6種類の生薬でつくられ、ショウガが胃腸を温め、ビャクジュツとカンゾウが胃腸にたまった水分を尿として排出させます。
- 副作用:胃部のむかつき、食欲不振、吐き気などがみられることがあります。
大柴胡湯
- 適した体格・体質:もともと筋肉質で体力がある人。暴飲暴食のために太り、太鼓腹になっている人。肥満に伴い下腹部痛、肩こりや耳鳴りなどの症状がある人。ストレスのために食べ過ぎて太る人。
- 効果:便秘の改善に加え、肝機能を改善して脂質代謝を促す作用、イライラをしずめる作用などがあります。8種類の生薬でつくられ、ダイオウやキジツが便通を促します。
- 副作用:食欲不振、腹痛、下痢などがみられることがあります。
漢方の飲み方
漢方は空腹時に飲むことで副作用が出にくくなり、効果が上がることが期待できます。そのため、多くの漢方は「食前」(食事の20〜30分前)または「食間」(食事と食事の間で、食後2時間くらいが目安。食事中という意味ではありません)に飲むよう指示されます。また、お湯に溶かして飲むと、より効果が期待でき、吸収もよくなるといわれています。
漢方にも副作用があるため、医師の指示した用法・用量を守り、飲み始めて気になる症状が出たら医師に相談してください。肥満症の治療でもダイエットでも、漢方などの薬はあくまで補助的なもので、基本は食事と運動です。
メディア掲載
医療情報メディア「A CLINIC コラム」で、当院の医療ダイエット外来が紹介されました。掲載記事はこちら
当院の医療ダイエットでは、薬の処方だけで終わらない包括的なサポートを行っています。管理栄養士による無料カウンセリング(月1回)に加え、肝機能・腎機能のほか、鉄や亜鉛などのミネラルバランスも定期的に血液検査で確認します。
また、東京の医療情報サイト「東京ドクターズ」に、当院の紹介記事と院長・天野方一のインタビュー記事が掲載されました。掲載記事はこちら