イーヘルスクリニック新宿院 院長の天野です。
「頭ではわかっているのに、どうしても甘いものがやめられない」「いくら食べても満腹にならない」
診察室で、患者様からこうした切実なご相談をよく受けます。多くの方は「自分の意志が弱いからだ」とご自身を責めてしまいますが、実はそうではありません。
医学的な視点から見ると、これは意志の問題ではなく、肥満や高脂肪食によって引き起こされた「脳の炎症」が食欲のブレーキを壊してしまっている状態なのです。今回は、その中核にある「レプチン抵抗性」という現象と、糖質依存から抜け出すための具体的なアプローチについて解説します。
私たちの体には本来、脂肪細胞から分泌される「レプチン」という強力な食欲抑制ホルモンが備わっています。
通常であれば、食事をして脂肪が増えるとレプチンが血流に乗って脳(視床下部)へ到達し、「もう十分エネルギーは足りているから食べるのをやめなさい」というサインを出してくれます。
しかし、高脂肪食を続けたり肥満状態に陥ったりすると、血中の過剰な脂質が脳内に微小な火事(神経炎症)を引き起こします。すると、このレプチンからのサインが、以下の2つの段階で完全に遮断されてしまうのです。
血液から脳の中へ物質を運ぶためには、血液脳関門(BBB)というセキュリティゲートを通過する必要があります。ところが、全身の炎症や中性脂肪が過剰な状態になると、このゲートの機能が低下してしまいます。結果として、血中にレプチンが大量に溢れているにもかかわらず、脳の中へ物理的に入ることができなくなります。
なんとかゲートをすり抜けて視床下部へ到達したレプチンにも、さらなる壁が待ち受けています。脳内で起きている「神経炎症」の影響で、細胞内に通信を邪魔するタンパク質(SOCS3やPTP1Bなど)が過剰に作られてしまいます。レプチンが細胞表面のアンテナ(受容体)に結合しても、細胞の内部でケーブルが切られたようにシグナルが遮断され、情報が伝わらなくなってしまいます。
入り口で門前払いされ、内部の通信も遮断される。この結果、脳の視床下部はレプチンからの信号を完全に失います。
すると脳はどう判断するでしょうか。
目の前にいくら食べ物があり、お腹にたっぷり脂肪が蓄えられていても、「体内にエネルギーが全くない!このままでは餓死してしまう!」と深刻な誤認を起こすのです。
その結果、食欲を抑える神経(POMCニューロン)は活動を停止し、逆に食欲を猛烈に促進させる神経(AgRP/NPYニューロン)が大暴走を始めます。これが、いくら食べても満たされない異常な過食の正体です。
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この恐ろしい「脳の炎症ループ」から抜け出すためには、気合いで食事を我慢するのではなく、血糖値をコントロールし、炎症を起こしにくい食習慣へシフトすることが不可欠です。
昨今、食欲を抑える画期的な治療薬として、マンジャロなどの「GLP-1受容体作動薬」が広く知られるようになりました。
たしかにGLP-1薬は、脳に直接働きかけて食欲をコントロールする素晴らしい効果を持っています。しかし、だからといって「薬を打って食欲が落ちたから、お菓子だけ少し食べて生活しよう」というのは非常に危険です。
食事量が減った中で栄養バランスをおろそかにすると、落ちてほしくない筋肉や骨密度まで一緒に減ってしまい、結果的に「ただやつれただけ」「薬をやめた瞬間に激しくリバウンドする」という最悪の結末を招きます。
当院では、この「GLP-1療法による栄養欠乏リスク」を極めて重く受け止めています。
薬を処方して終わりではなく、筋肉や骨を維持しながら、健康的に脂肪だけを落とすための徹底した栄養サポート体制をご用意しています。
① 肥満外来(自費診療)の方へ
当院でメディカルダイエットに取り組まれている患者様には、月1回、無料で専門家による栄養相談を実施しています。食事量が減った中でタンパク質や鉄分をどう摂るか、サプリメントは必要かなど、個別のライフスタイルに合わせた指導を行います。
② 糖尿病治療(保険診療)の方へ
2型糖尿病の治療としてマンジャロなどのGLP-1薬を使用している方は、保険適用の範囲内でオンライン栄養指導(月1回程度)を受けることが可能です。通院の手間なく、自宅からスマホ越しに適切な食事管理と服薬サポートを受けられます。
最新の薬の力と、専門家による「正しい食事」のサポート。この両輪が揃って初めて、一生ものの健康的で太りにくい体が手に入ります。
GLP-1薬を使用中で「最近疲れやすい」「食事の偏りが不安」という方、また、ご自身の食欲コントロールに悩んでいる方は、一人で抱え込まずにぜひ当院へご相談ください。
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この記事の監修者
天野 方一(イーヘルスクリニック新宿院 院長)
埼玉医科大学卒業後、都内の大学附属病院で研修を修了。東京慈恵会医科大学附属病院、足利赤十字病院、神奈川県立汐見台病院などに勤務、研鑽を積む。2016年より帝京大学大学院公衆衛生学研究科に入学し、2018年9月よりハーバード大学公衆衛生大学院(Harvard T.H. Chan School of Public Health)に留学。予防医療に特化したメディカルクリニックで勤務後、2022年4月東京都新宿区に「イーヘルスクリニック新宿院」を開院。複数企業の嘱託産業医としても勤務中。
日本腎臓学会専門医・指導医、抗加齢医学会専門医、日本医師会認定産業医、公衆衛生学修士、博士(公衆衛生学)
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