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糖尿病とは、血糖を下げる作用がある“インスリン”というホルモンの不足や作用低下が原因で、高血糖状態が続く病気のことです。糖尿病には種類がありますが、日本で多い2型糖尿病の治療では運動と食事など生活習慣の改善を基本とし、必要に応じて薬物治療が検討されます。一方、1型糖尿病は、自身で血糖値を下げるインスリンを作り出せないため、必ずインスリン注射が必要となります。治療薬には飲み薬と注射薬があり、それぞれ多くの種類があります。
新しいガイドラインでは、糖尿病の管理において、単に血糖管理だけでなく、臓器の保護も重要であることが強調されています。具体的には、エビデンスに基づいた治療薬を積極的に活用するよう勧めています。例えば、尿たんぱくを伴う慢性腎臓病が合併するケースや、心不全と糖尿病が併存するケースでは、SGLT2阻害薬による治療が推奨されています。
本記事では、糖尿病で使用される治療薬の特徴について解説します。
α-グルコシダーゼ阻害薬は、糖の分解酵素であるα-グルコシダーゼのはたらきを抑制し、糖の消化や吸収を遅らせる効果が期待されています。食前の血糖値はそれほど高くないけれど、食後の血糖値が上昇しやすい方に適しています。
薬には、アカルボースやボグリボース、ミグリトールなどがあります。
SGLT2阻害薬は、尿からの糖分の排泄を促進することで血糖を下げる効果が期待されています。糖は体にとって必要なものなので、通常は尿として排泄される前に再び血中に戻されます。しかし、このSGLT2阻害薬を服用するとその過程を阻害し、糖が尿中へ出ていくことで血糖値が下がるという仕組みです。
主に2型糖尿病で食事や運動などの生活習慣を改善しても血糖値のコントロールが十分ではない方、肥満傾向にある方などに多く使用されます。
薬には、イプラグリフロジンやダパグリフロジン、ルセオグリフロジンなどがあります。
膵臓にある血糖を下げるインスリンが分泌される組織(膵臓のβ細胞)にはたらきかけ、インスリンの分泌を促進し、血糖値を下げることが期待できます。インスリンの分泌は持続的に促されるといわれています。
肥満でなくBMIが低めの方で、食事や運動などの生活習慣がしっかりできているのにインスリンの分泌量が改善せず、血糖値が高い方などに使用されます。
薬には、グリベンクラミドやグリクラジド、グリメピリドなどがあります。
内服してからすぐに作用してインスリン分泌を促し、血糖値を下げるといわれています。SU薬に比べて体への吸収速度が速い薬のため、食後の高血糖の改善に適しています。
インスリン治療をしない状態で、食事や運動などの改善を行っても十分に血糖が下がらず、食後の高血糖がある軽症の2型糖尿病の方に使用されることが一般的です。なお、速効型インスリン分泌促進薬を服用すると血糖がすぐに下がるため、食事の直前に服用する点に注意が必要です。薬を飲んでから食事まで時間がかかると、低血糖症状になる危険があります。
薬には、ナテグリニドやミチグリニド、レパグリニドなどがあります。
DPP-4という酵素のはたらきを抑制して、インクレチンというホルモンの作用を助ける効果が期待できます。インクレチンは、血糖値が高いときにインスリンの分泌を促進して血糖値を下げるホルモンです。また、血糖値を上げるホルモンの1つであるグルカゴンの分泌を抑制するため、血糖値の低下につながります。
これは、2型糖尿病のみに使用され、合併症の重症度によって使用できない場合があるほか、年齢によっても使用に注意が必要とされているため、医師の指示に従って使用するようにしましょう。
薬には、シタグリプチンやビルダグリプチン、トレラグリプチンなどがあります。
肝臓からの糖の放出を抑えて血糖値の上昇を防ぎます。また、インスリンを効きやすくすることによって血糖値を下げます。肥満とインスリンのはたらきが十分でない状態(インスリン抵抗性)によってインスリンが多くなってしまう状態(高インスリン血症)がある2型糖尿病への使用が適しているといわれています。
薬には、メトホルミンやブホルミンなどがあります。
インスリンのはたらきを助けることで血糖値を下げます。人によっては、むくみや体重が増えることがあります。ビグアナイド薬同様、肥満と高インスリン血症がある2型糖尿病への使用が適しているといわれています。
薬には、ピオグリタゾンなどがあります。
インスリン製剤とは、インスリンそのものを補充する薬です。体質的にインスリンを分泌できない方には不可欠です。そのため、主に1型糖尿病の治療で使われ、自分で注射することが一般的です。なお、2型糖尿病でも、経口薬で改善しない場合はインスリン製剤の使用を検討する場合があります。
インスリン製剤にはさまざまな種類があり、素早く血糖値を下げるものや、効果が持続するものなどがあります。
GLP-1受容体作動薬は、膵臓からのインスリン分泌を促す薬です。GLP-1とはインクレチンというホルモンの1つで、食事の摂取などが刺激となって消化管から分泌されます。
これは1型糖尿病では使用できません。また、使用できない方もいるので、使用する際は医師の指示に従うようにしましょう。
「糖尿病の治療薬“GLP-1”とは? ~特徴と使用上の注意点を解説~」について詳しく見る
血糖値を下げる薬を使う場合は、低血糖になる可能性があります。低血糖状態になると、汗をかく、手指が震える、意識を失うなどの症状がでる場合があり、薬の使用後の食事が遅れたり、薬を多く使ってしまったりすることで低血糖を引き起こしてしまいます。低血糖の症状が出た場合はすぐに血糖値を確認し、ブドウ糖またはブドウ糖を含む飲料水を飲みましょう。
また、糖尿病の治療薬では低血糖のほかに副作用として体重増加や便秘、吐き気などの症状がみられることがあります。気になる症状がみられた場合は、自己判断せず医師に相談するようにしましょう。
血糖値が改善されたからといって、自己判断で治療薬の使用を中断しないようにしましょう。血糖値の改善が順調なのは、食事や運動などの生活習慣の改善に加え、治療薬が上手にはたらいているからです。薬の量や中断の判断は、医師が患者さんの状態を見ながら判断しているため、医師の指示に従うようにしましょう。
治療薬には飲み薬と注射剤があり、それぞれ多くの種類があります。薬の使用時は用量やタイミングを守り、低血糖に注意しましょう。低血糖になると手指の震えや意識消失が起こる可能性があります。糖尿病の薬で気になることがあれば、医師や薬剤師に相談しましょう。
イーヘルスクリニック新宿院の内科・糖尿病内科では、糖尿病の診療を行っています。丁寧な診察から、個々に必要な検査や治療をご提案いたします。医師はもちろん、看護師や管理栄養士、検査技師などもチームになって患者さんの健康を全力でサポートいたします。診療は土日祝日も対応しており、24時間365日診療予約がホームページから可能です。忙しい方でも受診しやすい体制を整えていますので、お困りごとがありましたらぜひお気軽にご相談ください。
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参考記事・文献
■米国糖尿病学会が「ADA診療ガイドライン2023年版」を発表 注目すべき追加・変更点は?
■Introduction and Methodology: Standards of Care in Diabetes—2023
記事監修:天野 方一(イーヘルスクリニック新宿院 院長)
埼玉医科大学卒業後、都内の大学附属病院で研修を修了。東京慈恵会医科大学附属病院、足利赤十字病院、神奈川県立汐見台病院などに勤務、研鑽を積む。2016年より帝京大学大学院公衆衛生学研究科に入学し、2018年9月よりハーバード大学公衆衛生大学院(Harvard T.H. Chan School of Public Health)に留学。予防医療に特化したメディカルクリニックで勤務後、2022年4月東京都新宿区に「イーヘルスクリニック新宿院」を開院。複数企業の嘱託産業医としても勤務中。
日本腎臓学会専門医・指導医、抗加齢医学会専門医、日本医師会認定産業医、公衆衛生学修士、博士(公衆衛生学)の資格を有する。